Love lesson
「・・・・・・・・・コレは、一体、どういう事かな?」
すでに部活も終わる頃で誰も居ない2年教室。窓側から一列目、後から2番目。
先輩は仁王立ちをして椅子に座っている俺を見下ろす。
俺の座る席の机の上には、解答欄が真っ白な英語のプリント。
そして彼女の手には携帯ゲーム機。
「赤也クン?貴方はどうしてここにいたんだっけかな??」
「・・・・・先生に出された英語のプリントをやるため、デス」
「どうして出されたんだっけ?」
「・・・・・・・・授業中にゲームしてたから」
「じゃあ、コレは何かな?」
「・・・・・・・・・・・・げ・・ゲーム」
「そうだね。それで?コレは英語のプリントをやるのに必要なのかな??」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ナイデス」
めいいっぱい間をあけて言った俺に、小さくため息を吐く先輩。
「せっかく、可愛い可愛い部員が真田にビンタかまされたりしないように、
マネージャーの私がフォローを入れたのにも関わらず、当の赤也クンは呑気にゲームをやってた、と」
「・・・・・・・す・・スミマセン」
彼女は俺の座る席の一つ前の席の椅子を引いて座る。
横向きに座り、背もたれのところに腕を置いて、俺を見る。
「んで?君はこれから何をするべきだと思う?」
「・・・・・・・・・・・・さっさと英語のプリントを終わらせる・・・っす」
「わかってるじゃない。じゃあ、やってもらいましょうか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」
最後の返事はかなり小さかった。
俺はシャーペンを握り、さっきまで机の端に置いていたプリントを寄せる。
だけど、英語が見るのも嫌なほど苦手科目の俺には当然ペンは進ませられない。
先輩がもう一度ため息を吐いたのがわかった。
俺は下を向いてるから、彼女の表情はわからない。
「赤也」
「・・・・・・はい」
「辞書見てもいいから私からのヒント無しで解けたら、ご褒美あげる」
「・・・・・・・・・・・・へ?」
ご褒美、その単語を聞いた瞬間俺は顔を上げる。
しかし先輩は俺と目をあわせないように顔をそらしていた。
俺は恐る恐る少しの期待を込めて、口を開く。
「・・・・・ご褒美って、何すか?」
自分で言って思ったけど。
ご褒美、って単語何かエロい。
「キス」
「マジッ!?」
「たーだーし。1問につき1回、頬に、ね。」
恋人同士ではあるが、普段先輩からキスをするなんて事は無いに等しい。
普段からキスをしてくれとせがんでいた俺。それが、問題が解ければしてもらえるとなると。
乗らないわけはない。
だけど、頬か。
本当は唇にしてほしいけど、まあ、いいか。
「約束っすよ?」
「も、勿論」
頬にキス、というだけで先輩にとってはかなりの妥協らしい。
彼女の言葉を聞いて、俺はすぐさま英和和英辞書を手に取る。
問一は、英文を訳する、という内容。辞書を使ってしまえばたいがいは出来てしまう。
俺は丁寧に単語それぞれの意味を調べて、書き留める。
詰まり詰まりではあるものの、何とか日本文は出来上がった。
「出来た!」
先輩は微妙な表情でプリントの解答を覗き込む。
たぶん、約束をした事失敗したかな、とか思ってんじゃないかな。
ちなみに、模範解答を貰っているわけではないので、あっているかどうかは、
英語が学年でも上位になるほど得意科目でしかも俺より一学年上の彼女自身の判断になる。
はにこりと笑って、正解、と言った。
「いよっしゃ!じゃあ、約束。先輩、キスして!」
俺は自分の頬をの方に向ける。
やはり恥ずかしいな、といった表情の先輩。
躊躇ったようにしてから、机に手をついて俺の頬に口付けた。
「・・・・・へへっ。この調子でどんどん行きますよ!」
ほどほどに頑張ってくれ。
先輩が小さくそう言ったのが聞こえた。
それから1時間経過。
最初の方は、先輩の頬へのキスがあったが、徐々に問題が難しくなって、
先輩のヒントをもらわないとわからなくなってきた。
最後にキスをもらえた問題からもう10問以上過ぎていると思う。
3枚あるプリントの2枚目がようやく終わった。
否、今までの俺からすればこのペースは、ようやく、ではなく、すでに、だな。
こんなに集中したの、久しぶりかもしんねぇ。
「・・・・・・・う〜・・せんぱーい」
「はいはい、ヒントかな?」
「・・・・・・・・ヒントください」
「どれどれ。・・・・・・・ええと、これはねー」
ヒントを貰うのが悔しい俺。
ヒントを与えるホッとした表情の先輩。
その光景がずっと続き、とうとう最後の問題。
10行ほどの英文についての問である。
俺は慎重に1文ずつ訳していく。けどところどころ訳せない。
それに、英文で書かれている質問文の答えがどこにあるのかさっぱり。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ヒント出そうか?」
「・・・・・・っまだまだ」
「でももう10分近く悩んでるよ?」
「まだ10分っすよ」
「・・・・・・でもねぇ」
「・・・・ああもう!先輩は黙って見てる!!」
・・・・・くっそー・・・・絶対解いてやる・・・っ!
辞書をペラペラ捲りシャーペンを強く握ったりして、プリントを睨む。
先輩はそれを見て大きなため息を吐き、手にある俺の携帯ゲーム機をピコピコといじる。
それからまた5分。時間は経つがペンは進まない。
とうとう彼女が携帯ゲーム機のスイッチを切る音が聞こえた。
「赤也」
「・・・っなんすか!」
「上から7行目以降の文」
「・・・・・・・・それはもしかしなくとも」
「ちゃんからのヒントです」
「・・・・・・・ひ・・酷いっすよ!何で言っちゃうんですかっ!!??」
ぽろりとシャーペンを落とす。
俺はどさっという音を立てそうな勢いで机に突っ伏した。
「ほーら。寝てないで、さっさとやりなさい」
「・・・・・・・・・・・・・やる気無くしたっす」
もう頑張ったって先輩からのキス貰えないし。
俺は突っ伏したまま言う。
「やりなさい」
「・・・・・・・」
「早く!!」
「・・・・・・・・・・・・・・わ・か・り・ま・し・た・よ!」
耳元で思いっきり声を大きくして言われて、俺は仕方なく言う。
渋々シャーペンを握る。先輩が言った7行目の英文に薄く線を引く。
カリカリと音だけが響く。・・・・・・・・・・。
シャーペンを投げるように置いて、俺は視線だけを彼女に向ける。
「終わった?」
俺は黙ったままこくりと頷く。
先輩がプリントを取って解答を見る。
「正解」
先輩はそう言って、残りの2枚のプリントにその最後のプリントを重ねる。
それを机に置いて彼女は立ち上がる。俺は目で彼女の動きを追う。
そして彼女は椅子を元通りに戻し、俺の横に立った。
「赤也」
・・・・・・・・・え。
「・・・・・・・っ先輩?」
急に頬に触れた温もり。
俺は驚きを隠せないまま振り向く。
・・・・・・っ今のって、キス、だよな?
「・・・・・・・・・俺ヒント無しで解いてないっすよ・・・?」
「今のは最後まで終わったご褒美」
「・・・・・・・・え」
「んで」
俺は完全に彼女に顔を向ける。
すると、先輩はゆっくりと身を屈めて、俺と同じ目線になる。
「・・・・・・っ」
今度は唇に触れる温もり。
目の前には、先輩の閉じられた瞳。
「今のは最後の問題頑張って解こうとしてくれたご褒美」
彼女は目を細めて微笑む。
その頬を赤く染めた先輩の顔は、俺の理性を簡単に崩した。
「・・・・・・・っ・・・」
耐え切れず先輩の後頭部に手を置いて引き寄せた。
そしてそのまま彼女の唇を重ねる。柔らかい感触。
彼女の体が俺の方に倒れこむ。空いている方の腕を彼女の腰に絡める。
膝の上に先輩を乗せる。
「・・・・・あ、赤也っ」
「先輩があんな事するからっすよ」
後頭部を引き寄せて、視線を合わせたまま俺は言う。
するとかあっと顔を赤くして視線を外した。
「・・・・・・・・・・頑張ってたから、ね」
視線は合わせないまま先輩が口を開く。
微笑んでいる先輩の横顔が凄く可愛くて俺は彼女を抱きしめた。
「先輩、すげぇ好き」
「・・・・・えっ・・何いきなり」
「好きだ」
「・・・・・・・・・・う・・うん・・・」
ダメ。
そんなんじゃ、ダメ。
「こっち、見て。」
俺を見てよ。
「・・・・・む・・無理・・・」
「見て、言ってよ。先輩」
後頭部から頬に手を動かす。
抱きしめてないけど、腰を引き寄せて密着させる。
足りない。
が足りねぇんだよ。
「言ってよ、」
先輩、を取って彼女の名前を呼ぶ。俺がそう呼ぶのは、彼女をほしがる時。
流石にこんなとこでする気は無いけど、先輩を自分に向かすには十分で。
驚いたように目を見開いて、それからゆっくりと先輩の瞳が俺をうつす。
口に手を当てて、視線を泳がせてから一度瞑ってそれからゆっくりと開く。
「・・・・・・・す・・好き、だよ。赤也」
「ん。ごーかく」
俺はにっと笑って、また口付ける。
「・・・・あ・・かや・・・・・帰ろう・・・?」
「もうちょっと」
「・・・・・っ赤也」
「何?」
「・・・・・・・か・・帰ろうよ」
「だーめ。俺まだの事抱きしめてたい」
「・・・・・・・・っ・・」
今度は、ぎゅっと抱きしめる。
俺との隙間をなくすくらい。
最終下校時刻まではまだ時間はある。
プリントの提出はもう少し後でいいよな。
あとがき
森月由那様からのリクエスト作品。
「赤也と学校で二人きり」との事で、こんな感じになっちゃいました。
いかがでしたでしょうか?気に入って頂けたら嬉しいです。
感想そしてリクエストありがとうございました。
すでに二弾目で甘さが足りなくなってきてしまってる。
しかも長さが・・・・っみ、短い。(本当ごめんなさい/土下座
が、頑張らねば・・・・・・っ。