Rainy date














珍しく亮の部活が早く終わった今日。
いつものように、亮の隣を歩く。

最初の頃は亮の歩きにあわせるのに必死になっていたが、
今は亮の方が私に合わせてくれるようになっていた。
彼もどうやら女の子への接し方を学んできたみたいだ。
それを教えているのが私だと思うと、妙に嬉しくなったりしてみたり。
そんな事を考えていると、ふと、亮が口を開いた。


「あ、のさ、

「なーに?」


言葉が少し途切れ途切れだな、と思いながらも返事をする。
私が亮の方を見てみると、何故だか視線を逸らされた。


「どうしたの?」


再度訊いてみた。
亮と視線を合わせようと顔を覗き込んでみたが、それもかわされてしまった。

明らかに様子がおかしい。


「・・・・・・何か後ろめたい事があるとか・・?」


浮気でもした?と小さく言ってみると、亮が凄い勢いで私の方を見た。


「無ぇっ!絶対無ぇっ!!」


そこまで必死に言われると余計に怪しく感じるんだけどなぁ。
黙って亮を見ていると、立ち止まって勢いよく私の両肩を掴んだ。


「マジで浮気なんてして無ぇから!」


どうやらそれは嘘ではないらしい。


「・・・・・って・・・笑うなよ」

「ごめんごめん必死に言ってくれるから、つい。で。何だっけ?」


脱線した話を元に戻す。
どうやら言いにくいその話を思い出したようで、また亮は視線を逸らしてしまった。
そして、そのまま歩き出してしまった。慌てて追いかけて、亮の横に並ぶ。
さっきよりも歩くスピードが早いみたい。


「・・・・え、っと、だな」

「うん」

「・・・・そ・・その」

「うん」

「・・・・つ・・つまり・・・えーっと」


そんなに渋って言う事ってなんだろう。
まさか、妊娠しました、なんて言わないよねぇ?
ってそれは言うとしたら私の立場だし。そもそもそんな事起こるような事してないし。
中々言わない亮をじーっと見ていたら、どうやら言う勇気が出たらしく、よし、と小さく言う声が聞こえた。
そして、また立ち止まった。それに合わせて私も立ち止まる。


「あ、あのな」

「うん」


亮は大きく深呼吸をして、私を見た。


「今度の土曜、2人で何処か遊びに行かねぇか?」

「・・・・・・・は?」


思わず間抜けな声を出してしまった。
亮は私のその間抜けな返答に、むすりと不機嫌そうな顔をした。


「・・・・・ンだよ」

「え。あ、ごめん・・・」


改めて、亮が言った言葉を頭の中でリピートする。


『今度の土曜、2人で何処か遊びに行かねぇか?』


え、っと。

コレは間違いなく、デートのお誘いですよね?


あの亮がデートに誘うなんて・・・・っ!


何だこれ!

すっごく嬉しい!!





「めちゃくちゃ嬉しい!!!」


笑ってそう言うと、亮はホッとしたような表情をした。


「んじゃ、決定な」

「うん!あ、でも部活は?」

「今度の土日は休み。だから言ってんだよ」

「そうなんだ!久しぶりの休みだね」

「だな」

「あ。でも、亮、部活で疲れてんじゃん」

「平気。日曜はちゃんと休むしな」


心配しなくていいんだ、と亮がにっと笑った。
それを見て私の頬の筋肉が緩む。


「何処行こうか!」

「そだなぁ。あ、確か先月遊園地出来てたよな?行ってみるか」

「あ!海の近くの?」

「それ」

「うんうん!そこにしよ!!」

「おう」


時間は?待ち合わせ場所は?
うきうきして、次から次へとどんどん聞く。そしたら、亮に笑われてしまった。
それを見て、ようやく自分がかなりハイテンションになっている事に気が付いて、
恥ずかしくてかぁっと顔を赤くさせたら、また笑われて、一緒に私も笑った。



































あふ。

大きな欠伸をして、目を擦る。
軽くペシンと頬を叩いて目を覚まさせる。
気合はばっちりだ!

今日は待ちに待った初デートの日!!


勢いよくカーテンを開ける。















ザァ――――――










・・・・・・・・・・・雨?





は目の前の光景に瞬きをする。
瞬きをしてみても、雨が降っているのはかわらない。


ええと。

今日は遊園地に行くんだったよね?


・・・・・あ・・・雨の日に?




ヴヴヴヴヴー


「うあっ」


枕元に放り投げてた携帯のバイブが音を立てて、思わず変な声を出す。
鳴り止まないから、大急ぎで携帯を手に取る。
かちりと開いてみると、ディスプレイには『着信 宍戸亮』の文字。

今日のデートの事だろうな。
この雨じゃあ遊園地行けないしね。

残念だなぁ。

そう思いながら、通話ボタンを押す。


「亮?」

≪おう≫

「おはよ」

≪はよ≫

「デートの事っしょ?」

≪デッ・・・・・う、まあ、そう≫


デートって単語にびっくりしたんだなぁ。
ああ。顔真っ赤になってる亮の姿が目に浮かぶ。


≪でさ。雨降ってるから遊園地やめようと思うんだけど≫


やっぱり。


「うん。私もそう思ったから。・・・・・残念だけど・・・仕方ない・・よ」


ううっ。しまった。語尾が弱くなった。


≪・・・・あー、でさ≫


困らせまいと思っていたのに、自分はどうしてこうなんだろうと頭を抱えた。


≪・・・・・・・その、なんだ≫



とにかく困らせたくないわけだから声を元気にさせなきゃ。


≪・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・家、来ねぇ?≫


元気に、・・・・・元・・・き?


「・・・・・・え」


携帯から手を離してしまった。
床に激突したそれを慌てて拾って耳に当てる。


「ご。ごめん!」

≪っ!びびった。どうした?≫

「携帯落としちゃって」

≪何やってんだよ≫

「ごめん!」

≪いいけど。・・・・で、だ。どうする?≫

「・・・・えっと・・・・・行ってもいいの?」


恐る恐る聞く。

だって、家だよ?
か・・・彼氏の家・・・・・ってねぇ?
別に亮は一人暮らしってわけじゃないけど。
いやいや。むしろ家族の人が家にいるってのもちょっと、アレだけど。
ああでも!2人っきりってのも・・・・っ!!


≪・・・・・あー・・・・がよければ、だけど≫

「いいの?」

≪いいって。っと、嫌だったら無理するなよ?・・・・・一応・・・その・・・・・男ン家だし≫

「・・・・・・・あ、えーっと。う。・・・・い・・・行きたい」

≪そ、そっか≫

「ほ、本当に、いいの?」

≪お、おう≫

「じゃ、じゃあ、おじゃまします」

≪お、おう。今から、来るか?≫

「時間、早いけど、いいの?」

≪おう。平気≫

「じゃあ、行く」

≪んじゃあ、迎えに行くから。用意しとけ≫

「うん」


ぷつりと電話が切れた。
当たり前なのだけれどツーツーという音が聞こえた。

・・・・・って、いうか。



どどどどどどどどうしよう・・・・・っ!!



とりあえず、着替えなきゃ!

パジャマのままじゃん私ってば。

ご飯食べなきゃ・・・っ!

ってかってか、今から来るんだよね?

メイク!メイクメイク!!

うぎゃーッ!?ね、寝癖ーーーーーーーっ!!








ドタッ ガタッ ドサッ



「ちょっ・・・な、何やっての・・・・」

「お、お母さん・・・・ごめん」

「急ぎすぎよ。雨の中行くの?遊園地」

「え。あ、べ、別の場所に変更」

「そう。その方がいいわよね」

「う、うん」


今日、亮と遊びに行くって事はちゃんと言っているのだけれど、
流石に、家に行きます、なんて言えない。
お母さんの事だから、特に五月蝿く言わないと思うけれど。




ピンポーン


「・・・・・あ。来た」


洗面所で最終チェックしていると、呼び鈴が鳴った。
ガチャリと扉が開く音が聞こえたから、たぶんお母さんが出たのだろう。

よし。変な所はなさそう。

鏡の前でぐっと拳を握って気合を入れて、玄関に向かう。
お母さんの声が聞こえる。にこにこ笑いながら何か話をしていた。
亮は私に気が付いたみたいで、目が合った。と思ったら、すぐに視線をそらされた。
お母さんが何かを言ったのだろうか。一体何を、と言おうと思ったけれど。


「急ぎなさい」


と言われて、仕方なく聞くのを諦めて靴を履く。


「じゃあ、亮君。の事よろしくね」

「はい」

「行ってらっしゃーい」

「・・・・・・・・行ってきます」


何でそんなに楽しそうなんだ。
そそくさと歩く私を手を振って見送るお母さんを振り返って、ため息を吐いた。


「何か、本当、お前の母親って感じだな」


隣で私と同じように、けれど私より控えめに振り返る亮。
どういう意味かと聞いてみたけれど返ってくるのは、別に、という曖昧な言葉。
まあ、亮の事だ。貶しているわけではないだろうから気にしない事にする。


「何言われたの?」

「あ?」

「さっき、目が合ったのに思いっきりそらしたじゃん」

「そらして無ぇよ」

「嘘だ」

「・・・・・」

「やっぱ、お母さんになんか言われたんでしょ」

「それは違う」

「じゃあ、何でそらすの?」

「・・・・・・・・・絶対言わねぇ」


「何でよ」

「とにかく言わねぇ」

「言ってよ」

「言わねぇ」


そう言って歩調を速めてしまった。
慌てて追いかける。速さ自体は大した事ない。
けれど私が今履いてるのがヒールのある靴、しかも実は履きなれていない。
だからあまり速く歩けない。亮に置いていかれそうになる。


「亮っ、は、速いよっ」


思わず亮の服の袖を掴む。
そしたら、あ、と小さく言って私の方を向いて歩く速さを遅くしてくれた。


「わりぃ」


本当に申し訳無さそうにいうものだから私は、大丈夫、としか言えない。

服の袖を掴んでいた手を離す。

そういえば、亮の私服姿って初めて見る。
シャツにジーンズ。いつも見る制服かジャージとは全然違う。


「あ、そうだ。昨日のお笑い見た?」

「見た見た!」


これ以上困らせちゃかわいそうだ。
そう思って、話を変える。

昨日のお笑い番組の、

あのコンビのネタが面白かった。

あのネタはいまいちだった。

あのご飯がちょっと食べてみたい。

いつも休み明けの月曜日に学校でする話。
それを休日に制服でなくて私服で話すなんていつもと違って不思議な気分。


「何笑ってんだ?」

「え。笑ってた?」

「気持ち悪いくらいに」

「酷ッ!」

「わりぃわりぃ。ん。着いたぞ」


亮に言われてぶーと膨れていた頬を元に戻す。
実は結構家近かったんだなぁ。15分も歩いてないと思う。

・・・・・・今更になって緊張が戻ってきた。


?」

「え、う、うん」

「・・・・・な、何緊張してんだよっ」

「だ、だって、さ」

「ああもう!とにかく入るぞ!!」


そう言って亮が私の腕を取った。
ぐいっと引っ張られて、倒れこみそうになる。
とりあえず、亮の胸に倒れこむのは足を踏ん張ることで阻止した。

・・・・・倒れこんでみてもよかったかな。なんちゃって。


ガチャ


「え?」

「お。亮じゃん」


亮が扉を開ける前に、中から男の人が扉を開けた。


「・・・・あ、兄貴」


あ。この人がお兄さん。


「あ。もしかして、君が、亮の彼女?」

「え、は、はい!」


私が返事をすると、亮のお兄さんはにっと笑って歩いてくる。
その笑った顔が亮に似ている。
亮をちらりと見ると、彼女、という単語にだろう、顔を赤くしていた。
お兄さんに促されて中に入れてもらう。


「こんにちは。亮の兄です。よろしくね」

「こ、こんにちは。です」


ぺこりと頭を下げる。


「え。・・・・・兄貴、どっか行くのか?」

「おう。お2人の邪魔出来ないっしょ」

「なっ!?」

「あ、一応、夕方まで帰らないと思うから」

「・・・・・・お、おう」

「亮、が・ん・ば・れ・よっ!」

「んなっ・・・さっさと行け!!」


真っ赤になって亮が言う。
どうやら亮は家でもからかわれキャラらしい。
亮のお兄さんは、ごゆっくり、と私にも言ってくれた。
靴を脱ぐ亮の後に続いて、私も、おじゃまします、と中に入る。


「部屋、階段上って右の手前だから。先行って座っとけ。飲み物持ってくから」

「うん」


そう言って、奥に行ってしまった。
言われたとおり、階段を上る。ええと、右で手前だよね。
ドアのノブに手を触れたまま少しフリーズ。
兄弟なんていないし、年齢の近い異性の部屋なんて初めて入る。
・・・・・うわっ・・・何か・・・・き・・緊張する。


「お・・おじゃましまーす・・・・」


恐る恐る中に入ってみると、男の子の部屋のわりに綺麗だった。
あ、テレビがある・・・・・いいなぁ。
そんな事を考えながら、部屋の真ん中にある小さいテーブルの傍に座る。
・・・・やっぱり、落ち着かない。

あ。そうだ。
亮が来るまで何かしてればいいんだよ。



じゃあー。


よっこいしょっと。


定番はやっぱりここよねー。


んー。


ちょっと暗くて見えにくい。


・・・・・・・・。



「お前、何やってんだ・・・・?」

「んー?探し物ー」


亮がお盆を持って部屋に入ってきた。そして、私の行動を不思議そうに見る。
どんな行動かというと、屈んで、部屋のベッドの下を覗いている状況。


「・・・・・・・・・・まさかとは思うけど」

「たぶんそのまさか。亮、どこに隠したのー?」

「無ぇよッ!!」


私はベッドの下から顔を上げて亮を見る。
亮は顔を真っ赤にさせていた。


「・・・・・・無いの?」

「無い!!」

「でも、絶対1冊は持ってるって聞いたよ?」

「誰からだよ!?」



「・・・・・・・・・・・何でンな事知ってんだ」

「あ。じゃああるの?」

「違ッ・・・言葉の文だ!!」


腕がふるふると震えてる。コップの中のジュースが揺れる。
亮はむすっとしたままお盆をテーブルに置いた。

なんか、心配していたのが嘘みたいだ。
ちゃんと緊張ほぐれてきちゃってる。


「あははっ、ごめん」

「・・・・ったく」


亮がどかっと床にあぐらをかく。
私はいかがわしい本を探すのを諦めて亮の隣、と言ってもちょっと離れたところに座る。



「あ。ジュース、いただきます」

「お、おう」


私はコップに口をつける。
ん。どうやらこれはコーラらしい。


「・・・・・・・・ゲームでもすっか?」

「うん」


そう言って亮はカラーボックスを引っ張り出した。


「あ」

「あ?」

「・・・・・ゲーム・・・で、いいのか?」

「いいよ?」

「・・・・・・、ゲーム、好きか?」


ソフトを手に取ったままこちらを見ずに言う、亮。
なんとなく言いたい事がわかったから、私は思わず笑ってしまった。


「大丈夫。家でもゲームするし」


亮なりに気を使ってくれちゃってるわけ、ですね。


「どんなのやるんだ?」

「んーっと。格闘モノは苦手でさ。RPGばっかり」

「へぇ。うちも持ってるぜ?あ、でも2人でRPGはなぁ」

「何でもいいよ?それに、見てるだけでもいいし」

「・・・・楽しくねぇだろ・・・見てるだけじゃ」

「いいよ。亮の好きなのやってくれれば」


・・・・・・・それに。


「亮と一緒ってだけで十分だし?」


と笑いながら言ってみたら、亮の顔が見る間に真っ赤になった。
今日は亮の顔は大変だ。温度が上がりっぱなしで。


「かっ・・・からかうな!」

「・・・・・・・・・・・・・・・怒った?」


とうとう私に背中を向けて黙り込んだ亮を見て心配になった。
沈黙が嫌で会話を継続させる為とはいえ、何度も亮をからかっちゃってたから。

・・・・・・・どうしよう。

怒らせるつもりなんて全然無かったのに。


「・・・・・っ!?」


亮の背中が大きく揺れた。


「・・・・・・亮、ごめん。からかってごめんなさい」


両腕いっぱいに、ごめん、を込めて亮の背中にくっつく。
最初離せと言いたそうに動いていた背中が、徐々に止まり私の肩に亮の手が触れる。


「怒って無ぇから、離してくんねぇ?」


言われて、ゆるゆると離れる。
床に手を下ろす。視線は下を見たまま。


「・・・・・・・・ごめん」

「怒って無ぇって」


ゆっくり頭を上げると、亮の真剣な視線と合った。
そして、いつの間にか向きを変えた亮の胸に抱き込まれた。


「・・・・りょっ・・!」

「最近やっと一々気にしなくなったと思ったら・・・・・」

「・・・・・え」

「そんなに気を使わなくたっていいんだよ。疲れちまうぞ?」

「だ、だって。今のは私が悪かったし・・・」

「・・・・・・・・さっき言ったの、本音、だろ?」

「さっき?」

「・・・・・・その・・・何だ。一緒で十分、ってやつ」

「本音だよ!」

「だろ?それなのに俺がああ言っちまったのが悪かった・・・・・ったく。激ダサ」

「・・・・っ!」


亮が、激ダサ、という言葉と一緒にため息を吐いた。
抱きしめられている状態だから、そのため息が耳元で聞こえて体が震えた。

な、なんだか・・・・・顔が熱い・・・っ。


「・・・・りょっ、亮・・・」

「・・・・・あっ、わ、わりぃ」


亮の腕を軽く握ると、慌てて離れる。
目が合うと、亮が一瞬ぴしりと固まってそして勢いよく口を手で覆った。


「・・・・・亮・・・?」

「・・・・・・うあっ!?」


座ったまま少し身を屈めて亮の顔を覗き込む。
そしたら、思いっきり焦った声と一緒に焦った顔をされた。


「どうしたの?」

「・・・あ・・あのな、・・・・そ・・そんなに顔近づけんな・・・っ」

「・・・・・・・え」


言っている言葉自体はわかるけど、その言葉の意味がすぐには理解できずそのまま固まる。
しばらくそのまま亮の少し赤い顔を見ていた。
口に手を当てたままゆっくり躊躇うように私の顔を見た亮の体が一瞬揺れた。
亮の腕がまた私を抱き込む。そのままゆっくり亮の顔が近づいてきた。


「・・・・・・っ」


唇にぬくもりが触れた。つまり亮にキスされたという事。
ぬくもり自体は一瞬で離れたけれど、亮の視線はまだ私の視線と重なったまま。
かあっと顔の温度が凄い勢いで上がったような気がする。

亮の視線が、熱い。


「・・・・・・・今日、親、いねぇんだよ・・・」


小さく呟いた言葉に、え、と息と一緒に言う。
えっと、ご両親がいない?お兄さんはさっき出かけちゃったし。

え。

つ、つまり。


「・・・・りょ・・う・・」


小さく名前を呼んだら今度は両頬に手が触れて、ぐいっと引っ張るみたいに寄せられてキスされた。
今度は一瞬じゃなくて、数えたら一体何秒になるんだろうってくらい長く。
少し息苦しくて、どこかに力を入れたくてぎゅっと目を閉じた。
しかもそのキスは、一回じゃなくて何回も、離れて、触れて。それの繰り返し。


「・・・・・・



とさっ


何回目かわからないキスをされたまま私の背中は床についた。
まるで外国映画とかで見るような、押し倒されている状況。
それでも亮は私の頬から手を離してくれなくて。離れるたびに名前を呼ばれる。
一番長いキスから開放されて目を開ける。唇から、息がもれる。
また亮の顔が近づいてきて、今度は躊躇う事無く目を閉じる。




ピンポーン


唇にぬくもりが触れる前に音が響いた。
その音に、一気に我に返る。閉じた目を思いっきり開いてみると、亮も目を見開いていた。

フリーズする事、5秒。


「っ!!!」


亮が勢いよく私の上から退く。
そしてドア側の壁に背中を思いっきりぶつける。
かなり大きな音だったからきっとかなり痛かったと思う。
起き上がって、亮を見る。彼は背中を押さえてふるふると震えていた。


「・・・・ちょっ・・だ、大丈夫?」

「・・・・・・、っわりぃ、俺・・・・」



ピンポンピンポーン


「・・・っ出てくる!!」

「・・・い、いってらっしゃーい・・・・・」


2度目の呼び鈴が鳴って、どたどたと音を立てて亮が階段を降りていった。
私は座り込んだまま、亮が触れていた両頬に手を当てる。


りょっ、亮ってあんなに積極的だったっけ・・・・・・?

ってかもし人が来なかったら、どうなってたんだろ。



・・・・う・・・うわっ。



とりあえず、テーブルの上のコーラを手に取る。
最初飲んだときより温くなっているはずなのにそれは冷たく感じた。
きっとそれは私の体温が上がったから。
コップに口を付けたときさっきのキスを思い出して、コーラが更に温く感じた。


「は?何だよそれ!」


亮の声が聞こえた。びっくりして、コップを落としそうになる。
私何かやったっけ?とか思ったけど亮の姿は見えない。
どうやら、部屋の前で誰かと話をしているみたい。
さっき来た人かな?知り合いかな?


。は・・・入ってもいいか?」

「こ、ここは亮の部屋だよ。いいに決まってるっしょ」


たぶん亮が言ったのは、さっきの事があったからだろうな。
恥ずかしさを隠す為に笑いながら言う。
すると、カチャとドアが開いた。


ちゃん、どう?楽しんでっか?」

「お、お兄さん!?」


入ってきたのは亮じゃなくて、亮のお兄さん。
夕方まで出かけると言っていたけれど、どうしたのだろうか。


「ごめんな。俺、帰ってきちまって」

「い、いえ、それは全然大丈夫ですけど、どうかなさったんですか?」

「友達ン家行ったら全滅でさー。大人しく帰って来ちまったってわけ」


お兄さんは、ついてないよな、と笑った。
確かに。私も失礼ながらも笑ってしまった。
後では亮が私と目をあわさずに困った顔をしていた。

そんな風にされたらこっちが恥ずかしいっつーの。


「あ。ゲームすんのか?」

「え、あ、おう」

「そっか。んーわかった」


そう言ってお兄さんが部屋から出る。
もしかして。そう思って私は亮の方を見る。
今度は亮と目が合った。言いたい事わかってくれるかな。


「・・・・兄貴、一緒にやんねぇ?」

「・・・・・・・・・・何を?」

「・・・・・・・・今変な事考えただろ」

「ジョーク。ゲームだろ?いいのか?」

「おう」


どうやらわかってもらえたらしい。
この前、従兄弟にごっそり貸していて今はあのボックスに入っているプレステ2しか家にはない、
と言っていたし、同じハードを2つも持ってるところは珍しいし。
それを聞いてたから、さっきお兄さんが少し困った風に言っていたのがどうしてかすぐに予想がついた。


「でも、なぁ」

「私、亮とやってもたぶん絶対勝てないし、
 もしよかったら是非、亮を完膚なきまでに打ち負かしちゃってください」


亮とゲームした事ないけれど、本当に勝てないと思う。
アクションとか苦手なんだよね。


「へぇ。そういう事なら。亮といい勝負だと思うぜ?」

「おおっ!亮を倒しちゃってください!」

「・・・・・・マジかよ」


というわけで、亮とお兄さんのゲーム勝負が開幕。
























「うわっ!お兄さん凄いっ!あとちょっとで倒せますよ!がんばれ!!」

「ってオイ!何で兄貴応援してんだよっ!!」

「お?何だ、亮。ヤキモチかぁ??」

「んなっ!?」

「やったぁっ!お兄さんの勝利!!」


亮の使ってたキャラクターがばたりと倒れて、
お兄さんが使ってたキャラクターが画面に大きく表示される。


「おいおいどうした、亮。いつもならもっと出来るだろ?」

「今のは兄貴が・・・っ!」

「俺が、何だよ?」

「くっそーっ。もう一回だ!」

「受けて立つ!」


そう言って、フィールド選択画面にうつる。
亮のコントローラーがピコピコと音を出しながら画面を切り替える。


「あ。そだ、ちゃん」

「はい?」

「勝った方にご褒美で頬にキスってのどう?」

「「は?」」

「おぉ息ピッタリ。否さ、その方が亮のやる気がでるんじゃねーかなぁ、って」

「なっ、何言ってんだよ兄貴!」

「お前が勝てば問題無ぇだろー?」


にやにや笑ってお兄さんが言う。


「そういう問題じゃっ・・・!」

「逃げんのか?」

「・・・・・・ンだと?」

「俺に勝てないと踏んで、逃げるんだろ?」

「違う!わぁったよ!受けて立つ!!」


え。ちょっと待ってよ!
何か勝手に私のキスが賞品に出されちゃってるんだけど・・・っ!

お兄さんのにやにや笑いが私の方にも向いた。


ちゃん、どっちを応援するかな?」

「お、お兄さん、何言ってるんですかぁっ!」


ってかもうあとスタートボタン押すだけの画面で、
しかも亮がやる気満々で力強くコントローラー握り締めちゃってるしっ。

わ、私の意見聞く気無し!?


!」

「は、はいっ!」

「ぜってぇ、勝つかんな!!」

「・・・・・・・へ?」

「・・・・・兄貴にゃ渡さねぇっ・・」


あ、あの。

今すっごく恥ずかしい台詞を言いませんでしたか、亮サン。


「・・・・・お、お兄さん」

「何かな?」

「・・・・・・・・・りょ、亮を応援します・・・」


恥ずかしさを隠し切れないままそう言う。
そしたらお兄さんは、そりゃ残念、と楽しそうに言った。





























結果、亮のキャラクターの必殺技が炸裂して、亮の勝利。
頬にしようと思ってたキスは、亮の手によって唇へと移動したのだった。




な、なんか今日、キスしてばっかだ・・・・・・・






























あとがき

はい。甘ーいシリーズ第一弾。
しょっぱなが宍戸さんってどうだろう。
微妙に、宍戸夢『時間』と同じヒロインのつもり。
どうでもいいけれど、火來はえろっちぃ宍戸さんが好きです。