第1期 拍手お礼夢『Color』act.0〜act.2
ある日神様が、色遊び、をはじめました。 赤、青、黄、緑、沢山。 赤に青を一滴落としてみましょう。 それはもう、最初の赤でも青でも無い別の色。 もう一滴落としてみたら、別の色。 もう一滴。 その色は神様の手を伝って落ちていきます。 雨のように地上に降ります。 ある時一人の動物がそれに触れました。 それがはじまり。 彼らは生まれた時一人一人に、色、を受け。 その色を抱いて生きる。 誰一人として同じ色は無い。 友達も恋人も、親も兄弟も子どもも。 どんなに似ていても違う。 そっくりだけど全然違う。 あなただけの色。 |
『――――――――さい――』 ・・・・・何? 『――――――――を――――い――――』 ・・・・・聞こえないよ。 『――――――――――――――』 ・・・・・何・・・? 疑問の声を発しようと口を開いた瞬間。 女の人の顔が見えて、周りが明るくなって、眩しさに・・・・・瞳を閉じた。 【 Color act.1 】 「・・・・・・・何?・・・夢・・・・?」 頭にすっと過ぎった映像に顔を顰める。綺麗な女の人の顔だったと思う。 しかし所詮夢。すぐに細かいところが思い出せなくなった。 私はそれ以上考えるのを諦めて、ベットから出る。 ゆっくりと立ち上がって、ベット横のチェストに向かう。 中からいつものように取り出し、慣れた手つきで銀色のそれを手に取る。 私の手首にぴったりとはまる幅10センチ近いブレスに鎖で中指用のリングが繋がれているそれ。 左手の中指に通してから、ブレスの部分を留め具で留める。 カチャリと音がして、左腕にずしりと重みがつく。 いつからこれが日課になっていたのだろうか。 物心ついたときから、毎朝自分は同じ行動をしていたような気がする。 朝目覚めて、お世辞にも綺麗とはいえない濁った銀色のそれを腕に、まるで縛り付けるかのようにはめる。 否違う。ように、ではなくて本当に縛り付けているのだ。 この左腕の能力を。 昔。まだ自分の手が小さい手だったころ、そのときからすでに自分の腕にはこの銀色がはめられていた。 そんな左手をお母さんとそして右手をお父さんと繋いで、両親と一緒に色とりどりの花が咲く公園に行った。 両親共、暖かい、暖色だった。 ・・・・・・だった、のに。 緩まった銀色のそれが抜けた左手がつかまろうと、お母さんに触れた。 刹那。 目いっぱいにお母さんの色が流れ込んで、我に返ったときにはお母さんが倒れていた。 お父さんがお母さんに駆け寄った。お父さんはお母さんの手に触れて、びくりと震えて、その手を置いた。 ゆっくりと私を見た。そして、銀色のそれが私の左腕にはまっていないのを見て目を見開いた。 そして、ぽろぽろと泣き出した。どうして泣いているの、と私はお父さんの顔に両手を触れようとした。 グッ お父さんは私の腹部を押して跳ね飛ばした。 そのまま私は仰向けに地面に倒れた。お父さんは小さく、あ、と声を漏らした。 ダンッ、と強く拳を握って地面を殴って、ゆっくりと私に近づいてきた。 そしてぽろぽろと涙を流しながら私の頬に両手を触れた。 『・・・・・・・・ごめん、ごめんね。お父さんの、言葉を、よく、聞いて。 お前の左手、には、力、が、あるんだ。お前の左手に触れると、その触れた人は、色を失う。 知って、いるよね?色はその人の、その人だけの、もの。その人の命、だ。 その左手は、その命を奪ってしまうんだ。だからあの、腕輪で、力を抑えるんだ。 あの、銀色の腕輪があれば、触れても、平気だ。けど、腕輪をしていない手で、他の人に触れると、 その人は、死んでしまうんだ。わかるね?お父さんの言葉を、忘れ、ないでね。』 頷くとお父さんは涙の流れる目を細めて、両頬から手を離した。 それを聞いて、やっと理解した。自分が、自分が、お母さんを殺したという事を理解した。 私の目からも涙がこぼれた。 お父さんは、ゆっくりと私の背中に触れて、上半身を起こさせる。 『痛い思い、を、させたね。ご、めん。ごめんね。』 そう言って私のお腹に触れた。 そして、私の左腕のそばに両手を置いた。 『お前を、怨んでしまいそうな、お父さんを、許しておくれ。』 そう言って自ら、銀色の無い私の左腕を取った。 お父さんの色が流れ込んできた。そのまま、お父さんはぱたりと倒れた。 私はただただ、色を失った2人が少しずつさらさらと砂のような光になって消えていくのを見ていた。 その光は、暖かい、暖色だった。 私は、涙を出ぱなっしにさせたままだった。 「・・・・・・って、何思い出してんだろう。」 私は知らず知らず涙を流している事に気が付いた。 お母さんとお父さんが死んだのは、もう10年くらい前の話。私は、今、15歳だ。 あのころより腕は大きくなっているのに、銀色のそれはあのころと同じもの。 同じもの、なのに、きつくなく、サイズがピッタリとはまっている。 ブレスは勝手に成長していた。私の腕にあうようになっていった。 逃がさない。 ブレスがそう言っているように思えた。 お母さんとお父さんを殺したこの腕を怨んだ。 そして、最初は私を置いて自らこの左腕を握ったお父さんも怨んだ。 どうして置いていったのか、と。でも、しばらくして、落ち着いてから気が付いた。 お父さんは、私を怨みたくなくて自ら死んだ、のだと。 最愛の人を殺した私の左腕を、暖かい手でとって、怨みたくない、と思ってくれたお父さん。 そんなお父さんと、そして毎朝自分が殺されるかもしれない腕に銀色をはめてくれたお母さん。 2人が、生きてくれ、と囁く声が聞こえる。だから私は、生きようと思った。 他人の色を奪うこの左腕を抱えて生きていこう、と。 こんなものを抱えているからもう他人を愛せないけれど。 それでも、一人ででも、2人の為に生きようと思った。 私は、左腕に手袋をはめる。 このブレスの意味を知っている人もいるから、怖がらせない為に。 こんな腕でも、私は普通のコとして生きる。だから、学校にも行く。 幸い、学校に通うお金は十分にあった。 タンスの中にお母さんの字で「何かあったらこれを使いなさい」と書かれた手紙と、 通帳と印鑑が置かれていて、もしかしたら両親は、 私があんな事をしてしまうのを予想していたのかもしれなかった。 学校や友達には、酷い火傷で日に当てられない、と言っている。 女の肌だからだろうか、それ以上触れないでいてくれる。 学校、氷帝学園の制服を着て家を出る。 長い一日が始まる。 |
『何言ってんのさ!私の季節だよ!!』 『あー、桜だから?』 『そういう事。』 『でももう桜は散ってるよ?』 『うっわ、テンション下げさせないでよー。』 今通り過ぎた子は、桜色と、蛍光っぽい黄色。 【 Color act.2 】 学校に着いて、適当に周りと挨拶を交わしてすぐに教室を出る。 教室にいたって、誰かと話をするわけではないから。 いじめられてるとかそういうわけでは決して無いのだが、何となく違和感を感じるから。 何故か私は周りと違ったように感じた。どう形容したらいいのかわからないけれど、 無理やり言うとしたら、そう。 『いない』 頭にふっと思い浮かぶ単語はそれだった。 まるで、私、という個人が存在しないかのような。 友達と会話はちゃんとする、授業中わからない所があったらお互いに助け合う。 体育の授業ではちゃんと好きなもの同士でチームも組める。 それなのに何故か思考にぽっかりと一人でその単語が居座っている。 取ろうにも取れない。一体どうしてなのだろうか。 私は手袋の上から中指の銀色に触れた。 答えは、見つからなかった。 ガラ・・・・・ 「アーン?先客か?」 扉の開く音と不機嫌そうな声が聞こえた。 ここは第二校舎の屋上だ。人が来るなんて珍しい。 いつもは2時間目までここにいたって人なんて現れないのに。 私はゆっくりと振り返って、見る。 そこにいたのは、この学校じゃあ超が付くほど有名な。 海よりも。 空よりも。 美しい、青、だった。 |